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『PTメンバーが方眼紙にマッピングしてる!?』 ──ファンタジーって何だ?── |
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例に漏れず俺は転生した。 見渡す限り、冷えた木々と濡れた草々、いわゆる中世ファンタジー世界 木々を見て「中世ファンタジーだ」というのはおかしな話だが、 幾つかの理由があるー |
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まずは“翻訳機能付きUI”が標準で付与されている。 ご存じの通り、UI画面にはステータス、歩いた道、 クエストの進捗、アイテムを更新し表示できる。 勿論、地図以外は空欄となっているわけだが UIから滲む設計思想の輪郭が、 いまの立場や世界を定義し、道しるべとなっている。 |
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そして指針となるもう1つは 前世の記憶、前世の体を引き継いでいる。 「転生」という言葉は正確ではない、「転移」と言うべきだ 自身が平行移動しただけで、 前後の時間感覚を維持している。 つまり物事の正解を定義する自我が既にある… |
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まったく別の世界に生きるならば元の記憶はノイズとなり もはや障害になるはずだが、 あえて「転生」として「転移」するという事、 UIによるナビゲーションがあるという事、 これらの存在は「中世ファンタジーを前世の感覚で生きる」 という方向性を決定している証だろう。 |
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この世界の時間がUIに表示されている マヴイ593年、エレシス、17。 マヴイというと、昭和とか平成とか年号を示していて、 エレシスというのは四季、 または月の単位か何かであり、17日。 果たして31日まであるかとかは解らないが… |
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現在エリアはヴァルレイブ大陸、ドルメディアと示される、 ドルメディア国は国王バート・ブルスを掲げる豪族の集合国家であり、 細かい情報によれば、 領主ロード・ウルス・デュ・ソウルズの属領の、 バイバン山系の森の一部だ。 その森で迷って3日がすぎ、明確に遭難している。 |
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所持金は20アヌル… UIによれば日本円で1アヌル160円、総額1600円程になる… ドルメディア国は隣国マムダガダ国と、 デブデ・デュ・デブカ伯領の抗争を端に発する鋼鉄需要の好景気で、 裏街道から行商人がアヌル目当てで食品、鋼鉄を持ち寄っていて、 活気があり、物価も安定してるという。 つまり、2アヌルで簡単な昼食くらいは賄えるという事だ。 |
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食い物については… この遭難から抜け出す事が出来ればの話になる… 3日の間、朝露やら夜露やら… 草の汁の様な物で飢えを凌いだ。 そろそろ限界に近いが、 思ったより冷静で居られる… |
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この危機的状況も冷静に受け止める事ができる理由がある 前世では高難度RPGをいくつか嗜んでいた経験がある事 前世で老化して死んだので、そのまま生き返って… いや前世の姿のまま生き返った所でメリットが無い。 |
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もはや前世の延長戦の様な形なので、 前世で終わった生に固執する必要が無い、 加えて今回の様に転生するなら、 そもそも輪廻の中に居るという事実があり、 どうせ輪廻するならば、今に固執する理由が無い。 |
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ニヒリズムに近いと言えるが、 フィジカルとしては遭難の憂き目で、 より前世の儚さをツブ立てて感じる気がする 今の状況、この命よりも… それを比較する前世そのものが既に消失していて それを惜しむ気持ちかもしれない。 |
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もし、いま飢えて死んだとして 何もかもあった前世を失った事と比べれば ただ飢えて死ぬ方が、喜びと悲しみの高低差が低いと言える ここで、この世界で詰んだ夢や希望がそもそも無いなら… ここで死ぬ悲しみとは何処から生まれるのだろう? |
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山道をあてもなく3日も歩くと、 今の状況などは考えに無くなっていき、昔を考えてしまう… ただ、それは苦痛ではない。 私の前世も今の考えに生きてる実感が心地よくもあった… |
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暫くして、山道が整いつつある事に気が付く… 人里に近い表れなのかもしれない 仮に町が無かったとしても、構わないと思っていた。 開けた場所に安心を覚える 山深い密林では方向感覚は失われ、 自分の状況さえ見えなくなるものだ |
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まったくの自然、野生、アウトドア。 それでも一定の広さ、 スペースがあれば方向感覚を維持したまま野宿もできる 少し覚悟の様な、希望の様な物が湧く… |
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このような遭難の際、 食べ物というのは実は多く存在するのだ 極寒の地でもなく、砂漠でもなく、海上でない あらゆる物は食材になりうるだろう… |
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短期的に言えば、自らの尿でも喉の渇きが癒せるだろうし 糞は燃料にもなるから、 昆虫などを燃やせばタンパク源として生かせるに違いない 火があればどのような食材の菌やウイルスのリスクは軽減する… |
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新しい食生活を思案しながら歩みを進めていると、 前方に女性… いや、15歳か、それよりも若いかもしれない… ブロンドの髪をポニーテールで纏めた旅人風の少女がいた |
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彼女は一本の大きな大樹に手を当てて、 祈りの様な何かを呟いている様だった… |
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